サキの叫び声を背後に聞きながら、オレはランランラン♪って、感じでスキップしながらキッチンからフロアへ飛び出した。


「失礼します。 おかわりお持ちしましょうか?」


営業用スマイルと爽やかこの上ない声で、佐伯さんに声をかけた。

佐伯さんはいつもブレンドをミルクも砂糖も無しで飲んでいる。

ちなみにブレンドはおかわり自由なのだ。


佐伯さんが、手にしていた本から顔を上げる。


洋書かよ……。

こんだけ揃ってるくせに、英語までできるのか。

すげーな、おい。


「いや。いいよ。ありがとう」


オレの営業用スマイルも霞んでしまうほどの、顔全体でくしゃって笑う笑顔にクラリとする。


だっ……抱かれてもいい。
って、オレ何考えてんの――!


やっべ……。

一瞬、アブノーマルな世界に引き込まれるかと思った。

いや、それぐらい佐伯さんの笑顔は魅力的だった。


なるほど。サキが惚れるのも無理ねーな。


「何読んでるんですか?」

「ロバート・パーカーの推理小説だよ」


そう言って、本の表紙をオレに向ける佐伯さん。


その瞬間……光を反射してキラリと輝いたものをオレは見逃さなかった。

左手の薬指にはまった、華奢だけど存在感のあるそのリングを……。