「だから……サキの態度がはっきりしないからさ。試してみようって思ったんだ。オレがマヒロ君に迫ってたらさすがのサキも焦るかなぁ……って思って。それに……」


「あのさ……」


オレはため息をついて、頭をガシガシと掻いた。


「おふざけも度が過ぎだら罪だろ? サキが泣いたのは、アンタと初恋の相手のことがまだトラウマになってるからじゃねぇの? こういうやり方で人の気持ちを試したりすんなよ」


「すごいね……」


アイちゃんは一瞬目を丸くしてから呟いた。


「そこまで真剣に想われてるサキが羨ましいよ。けど……案外マヒロ君も鈍感なんだね」


くっくっと肩を揺らして笑っている。


「何がおかしいんだよ?」


「いや、ごめん、ごめん。でも、サキが泣いたのは過去のトラウマのせいじゃないと思うけど? まぁ……そのことは本人から確かめてみてよ? お説教は後で聞くからさ……。とりあえず今はサキを追いかけてやってよ。多分、向かいの公園にいるはずだよ。落ち込んだ時はいつもそこだから」


オレは無言で立ち上がった。


「あ……でも、ちょっとやりすぎたかな。サキに謝っといてよ」


背後からアイちゃんの声がして、オレは一度だけ振り返った。


「ほんとに悪いと思ってんなら、てめぇで謝れ」


そう言うと、アイちゃんは「そうだね」と呟いてにっこり微笑んだ。



玄関で靴を履いていると、サキがいつも使っている赤い傘が目に入った。

アイツ、傘も持たずに出て行ったのかな。


オレはサキの傘を手に取ると部屋を出た。