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翌日のマシェリ。


オレはサキの純愛の相手とやらを教えてもらうことになったんだ。

マシェリのキッチンはオープンだから、客が調理の様子を見れるようになっている。

つまり逆に言えば、サキのようなキッチンスタッフからも客席は見渡せるわけで……。


「あ……あの人です」


彼女の指差す先にいた人は……。


「へぇ……。佐伯(サエキ)さんかぁ」



佐伯さんは、マシェリの常連客で、近くの設計事務所に勤めている建築士だ。

お気に入りの席は窓際の一番奥。

その席はアンティークのテーブルとイスがしつらえてある。

クッションもついていないシンプルな木のイスだから、あまり人気のない席なのだが、佐伯さんはなぜかいつもそこに座る。

ほんの少し体を斜めに腰掛けて、長い脚を組んでる。

歳は30代前半ってとこかな……。

そこはかとなく色気の漂う大人の男だ。


「あれは……かなりハードル高いぞ」

「わかってます。だから見てるだけで良いんです」


隣で顔を真っ赤に染めているサキを見下ろした。

顔どころか首筋まで真っ赤だ。


「ふーん……見てるだけねぇ……」


彼女を見てると、ついいじめたくなるんだよな。


「じゃ。オレ、話しかけてこよーっと」

「へ? えええええ?」