さらに顔を近づけると、オレから逃げるように彼女は限界まで体をそらす。


「だから、一段ずつ階段を上っていく……みたいな。その過程が大事なんです! 気持ちもないのに、エッチしちゃうなんてもってのほかですー!」


「階段を上るねぇ……くくっ」


オレはパッと彼女から体を離すと、たまらずゲラゲラ笑い出した。


どんな純愛だよ。

今時、中学生でもやることやってるっつーのに。



「なっ……何で笑うんですか!」

「いやいや。悪い。でさ。一つ訊きたいんだけど……」

「ハイ?」

「そういう恋愛ってやっぱ楽しいもんなの? オレそういうの経験なくてさ」

「楽しいですよ。もちろん」

「ふーん。そんなの、オレは逆によくわかんねーよ。どうすりゃいいの?」

「そですねぇ……」


眉をひそめて考え込むような素振りをするサキ。

やがてひらめいたのか、パッと明るい表情でこう言った。


「とにかく、すぐにエッチは禁止です! まずは愛を確かめ合ってからです!」

「ハイハイ」


オレはまた肩を揺らしてクスクス笑った。

純愛ねぇ……。

そんな恋をしたのはいつの話だっけ?

記憶に残ってないぐらい遠い昔のような気がする。


ほんとにそんなもんが存在するなら、その姿を拝んでみたいもんだ。


オレはふとそんなことを考えた。

だから、こう言ってしまったんだ。


「で。サキは今、そういう相手がいるの?」