さらに数時間後、オレはマシェリの事務所のドアの前で佇んでいた。


幸いにも今日は遅出。

いったん家に帰ってシャワーを浴びる時間は充分にあった。

オレはいつもより念入りに体を洗った。

あの女の痕跡を体に残したくなかったからだ。

まるで妻にバレまいと、浮気を必死で隠す夫みたいだ……なんて考えてハッとする。


オレはいったい何にビビってんだ?

別にオレが女と何しよーが、悪い事してるわけでもなんでもない。


オレは今現在フリーの身なんだから。

例え他の女の子とエッチなことしちゃっても、誰に後ろめたいわけでもなんでもない。

ましてやサキはオレのことなんてなんとも思っていないんだから……。

昨夜のことだって、サキに知られてもどうってことない。


そう自分に言い聞かせて、勢いよくドアを開けた。


「あ! おはようございます」


事務所内のソファに座っていたその声の主と目が合う。

にっこり微笑む彼女。

一方、目が点になっているオレ。

お互いに見つめあったまましばらくの沈黙。


オレは一歩後ろへ下がると、開けたはずのドアをそーっと閉めた。