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「すみませーん! ほんと助かりましたー!」


風呂から上がった彼女が髪をバスタオルで拭きながら満面の笑みでそう言った。


正直オレは面食らってる。

この手のタイプは警戒して、男の部屋なんて簡単には入らないような気がしていたから。

ところが、今目の前にいる女は警戒心のかけらも感じさせない。


それどころかオレのスウェットまで着ちゃって、我が家のようにくつろいでいる。

案外大胆な性格なんだろうか……いやむしろ並外れた世間知らず?


不思議な生物にでも出くわした気分だ。

首をかしげながらキッチンに立ち、大きめのカップにお湯を注ぐ。


「サキ、ココアでよかった?」


彼女が座ってる位置の前にあるテーブルにコトンとカップを置いた。


え?……と、彼女は戸惑うような表情でオレを見つめる。


「ん?」


「ビックリした……。マヒロさんがあたしの下の名前呼んだの初めてだったから」


そういう彼女の頬はほんのりピンク色をしていたが、それは風呂上りのせいなのかなんなのかオレにはわからなかった。


普段からあまり化粧はしていないんだろうな。

スッピンでもその顔はほとんど変わりなかった。

彼女の髪や体からいつもオレが使ってるシャンプーやボディーソープの香りがして、オレの中のやばい欲望が首をもたげる。


オレはなるべく自然に、ほんの少し体を彼女に近づけた。


「だって、今から“いいこと”すんのに、名字じゃムード出ないでしょ」


「いいこと……?」


サキは相変わらずキョトンとした顔で尋ねる。


「ん……」