マットレスの上に寝転んだかと思うと、腹筋を始めた。


 短く息を吐きながら、取り憑かれたように腹筋を繰り返す。


 わたしはその様子を呆然と見つめていた。


 身体を鍛えているのは、リンの命令だろうか?


 百回ほどの腹筋を終えると、今度は腕立て伏せを始めた。


 半袖のTシャツから覗く腕の筋肉が少し盛り上がっている。


 いつの間に、こんな筋肉質に……?


 わたしは訝しげに思いながら、裕太の変貌に目が釘付けになった。


 さらに、鉄棒にぶら下がり懸垂を始めた。


 ストイックなアスリートの生活を見せられているような気分になった。


 本当にどうなってるの……?



『ハーイ、ロミオ。お夕食の時間だヨ!』


 リンがやって来て、地面にトレイを置いた。


 コップに入った白っぽい飲み物と、アメリカ人が食べるような分厚いステーキ。


 これを裕太が食べるの?


 同年代の男子より、少し食の細い彼が……。


 わたしの心配をよそに、裕太は手掴みでステーキにかぶりついた。


 旨そうに肉汁を滴らせながら、肉食獣のように一心不乱に食べている。


 わたしは驚きのあまり、画面を見つめたまま固まった。


 ウソよ……こんなの裕太じゃない!


 きつく拳を握りしめながら、恋人の面影を必死に探していた。



『プロテインも摂りなさい、ロミオ』


 リンにコップを手渡され、裕太はプロテインを飲み干した。


 短期間で筋肉質になったのは、トレーニングとプロテインとステーキのせい……?



『良い子ネ。早く大きくなって、ワタシだけを守るナイトになるの』


 リンが囁くように言って、裕太の腕を取った。


 そして素早く何かを注射すると、一瞬裕太が顔をしかめた。


 痛みに耐えているのか、身体を震わせ始めた。



『……うぉおおおおっ!!』


 突然、両腕を突き上げて雄叫びを上げた。


 獣同然と化した裕太の姿に、わたしは言い知れぬ戸惑いとショックを覚えた。



「非常に強い興奮剤を投与して、ロミオの人間性を奪っているようだな」


 イシザキの冷静な声がすぐ後ろから聞こえる。


 興奮剤……人間性……奪う。


 充血した目をぎらつかせる裕太は明らかに尋常ではなく、ますます不安になった。