空腹に負けたわたしは、パンの匂いを嗅いで異常がないことを確かめると、大きく口を開けてかじりついた。


 固くてボソボソしているけど、噛めば噛むほど味が出て美味しい。


 牛乳を飲むと、冷たさが胃に染み渡った。


 パンも牛乳も一回分の食事量だが、わたしは念のため半分残しておくことにした。


 次の配給がいつあるか分からないから、慎重にならなければいけない。


 檻の中で、ただエサを与えられるのを待つだけ……。


 まるで自分がペットか、動物園の動物にでもなったかのような気分だった。



 今頃、家族や学校のみんなはどうしているんだろう。


 心配して捜してくれてるかな……?


 警察がわたしたちの足取りを追って、遊園地でラビリンスを見つけてくれることを願う。


 しかし、犯人たちも馬鹿ではないだろうから、証拠を残すことなく姿を消したに違いない。



 ここが何処なのかも分からない……。



 助けが来るのが先か、殺されるのが先か。


 どっちだろう?


 わたしは、自分が意外なほど現実主義であることを思い知った。


 こういう時こそ、希望を持たなければいけないのに──。



 ぼんやり考えているうちに気だるい眠気に襲われた。


 わたしは出来るだけ小さく丸まりながら、冷たく無機質なコンクリートの上に横たわった。


 ふかふかのベッドと暖かい布団が恋しい。


 あと、ママの温かい手料理……。


 もう一度、食べられる日が来るだろうか。


 わたしは目尻の涙を指で拭い、鼻をすすり上げた。



 いつの間にか夢の世界へと誘われていった。


 目を開けると家に戻っていて、両親と飼い猫のココナッツがいる。


 大好きなわたしの家族……。


 楽しそうに食事をしている姿が目の前にあるのに、ガラスを隔てているかのように声が聞こえない。


 わたしの声も届かなかった。