裕太は躊躇する素振りを見せたが、リンに促されると遠慮がちに口を開いた。


 ゆっくりと咀嚼し、ゴクンと飲み込む。


 リンがさらにスプーンを差し出すと、裕太は再び口を開いた。


 わたしは息を飲んで、奇妙な食事風景を見守っていた。


 だんだんペースが速くなり、喉に詰まらせたのか裕太がむせる。



『ほら、ほら。ミルクだヨ~』


 リンがあやすように言いながら、哺乳瓶を差し出した。


 何あれ……!


 裕太を何だと思ってるの?


 さすがに哺乳瓶はないだろうと、わたしは悔しさに唇を噛みしめた。



『……これは?』


 コップではないことに気づいたのか、裕太が困惑混じりに声を上げる。


 しかし、無理やり哺乳瓶の乳首を口に含まされ、ミルクを飲む羽目になった。



『こぼしちゃって。可愛いベイビーだネ』


 慣れないせいで唇の端からミルクを垂らし、リンにハンカチで口元を拭かれる。


 裕太には屈辱的なのだろう、顔を伏せてじっと耐えているように見えた。


 こんなの見たくなかった……。


 わたしはショックで放心状態に陥った。



『萌は……まだ見てるのか?』


『ばっちり見てるヨ! すごーく嫌そうな顔で赤ちゃんロミオのこと、じーと見てるネ』


 リンが声を弾ませて、裕太の頬をツンツンと人さし指でつつく。


 真っ赤な爪が魔女のように伸びている。


 その言葉に傷ついたのか、裕太は口を歪めながらため息を漏らした。



「裕太、嘘だよ! わたし……嫌な顔なんかしてない。だから──」


「無駄だ。今、向こうのモニターは音声が切られている。リンは抜け目のない女だ」


 イシザキの冷静な声を聞きながら、わたしはリンの姑息なやり方を激しく憎んだ。


 わたしたちの仲を切り裂き、楽しんでいるのだ……。