目隠しをされているせいで、裕太にはわたしの姿は見えない。


 でも、声が届いただけで幸せだった。



「裕太……。やっと、話せたね」


 感情を揺さぶられ、泣き声になってしまう。


 裕太が力なく笑みを浮かべた。



『……元気そうで良かった。怖い思いしてない?』


「うん。わたしは大丈夫だよ、心配しないで」


 背後から痛いほどの視線を感じて、わたしはそう返事をした。


 何よりも、裕太を心配させたくない。



『そうか。良かった……。ご飯は食べてる?』


『ロミオ、だめだヨ! あなたはワタシのペット。つまらないおしゃべりはおしまいネ』


 リンの声が割り込んできて、裕太の口をふさごうとする。


 ああ、もう。邪魔しないで……!


 わたしは苛立ちを覚えて、リンを無視して話しかけた。



「ちゃんと食べてるよ! 裕太は? お腹空いてるんじゃないの?」


『アレックス。そのうるさい女を黙らせるんだヨ!』


 裕太の口をふさぎながら、リンが尖った声を出す。


 アレックスと言うのがイシザキのファースト・ネームであることを思い出した。



「俺がお前の指図を受けないのは知ってるだろ? ヒステリーは美容に良くないぜ、リン」


 イシザキが余裕たっぷりに言葉を返す。


 その砕けた口調から、リンとは気心が知れた関係であろうことが窺えた。



『オゥ、アレックス……。相変わらずひどい男だネ! ご飯は今から食べるんだヨ。ロミオはベイビーだから、ワタシが食べさせてあげる』


 画面がズームして裕太の顔をアップにした。


 鼻歌を口ずさみながら、リンが食器を用意する音が聞こえる。


 両手が使えないのだから、彼女に食べさせられるのだろう。


 ……見たいような、見たくないような複雑な気分。


 もちろん、餓死させられるよりマシだけど。



『ハイ、ロミオ。あーん』


 リンの声がして、スプーンを持った白い手が画面の端に映り込んだ。


 茶色くふやけたもの……オートミール?


 明らかに栄養価が少なそうな食べ物に、わたしは落胆と怒りを覚えた。


 食べ盛りの男の子なのだから、もっと考えて欲しい。


 そんなことを口にしたら、彼女の怒りを買うだけだろう。