イシザキはふかしていた煙草を落としてスニーカーで踏み潰すと、細い筒のようなものを口に含んだ。


 フッ!と吹いた瞬間、筒から針のついた矢が飛び出した。


 吹き矢だろうか?


 矢は見事サソリを捕らえ、身動きを封じた。


 サソリは最初もがいていたが、やがて全く動かなくなった。



「死んだの……?」


「毒を持って毒を制す。腕鳴らしにちょうど良い標的だ」


 イシザキは独り言のように言うと、携帯を取り出した。



「……イシザキだ。ルームサービスを頼む」


 短く告げた後、わたしをジロリと見た。



「ミスターBは執念深い男だ。俺がいない隙を狙って、何度もやって来るだろう」


「……開けないから平気」


 わたしは自分に言い聞かせるように言った。



「職員から鍵を奪って、部屋に上がり込むかもしれない。もっとも、そんな真似をすれば永久追放されるがな」


 そのとき、チャイムが鳴った。


 イシザキは敏捷な動きで扉に近づくと、覗き穴から訪問者を確認した。



「さっさと入れ」


「……失礼します」


 つなぎを着た職員が会釈をして、部屋に入って来る。


 イシザキは後ろ手に素早く扉を閉めると、低い声で指示を出した。



「床に落ちてるゴミを処分しろ。あと……」


 バスルームの方を向いて、言葉を切る。



「あとは、何をしましょうか?」


「……いや。掃除だけでいい」


「かしこまりました」


 職員は表情を変えることなく、掃除機のようなもので吸い殻とサソリの死骸を吸い取った。


 それから、床をホウキで軽く掃く。



「イシザキ様。こちらにサインをお願いします」


 今度は請求額に文句をつけることなく、イシザキは無言でサインをした。


 職員が去って行くと、腕時計に目を落とした。



「そろそろか……。ジュリエット。椅子に座れ」


 わたしはその言葉に従いながらも、また拷問映像を見せられるのかと思うと気が重くなった。