しばらくすると、扉の施錠が外れる音がした。
イシザキが薔薇の花束を手に部屋に入ってくる。
「あ、その花束は……」
伴が持っていた花束だと分かり、わたしは少し気まずくなった。
約束は破っていないのだから、恐れる必要はないのだが。
「ミスターBが来たんだな?」
「み、ミスターB……? 伴って言ってたわ」
「それは仕事上の名前だ。ここでは、ミスターBと呼ばれている」
イシザキはいつも以上に無愛想に言うと、荒々しく花束を投げ捨てた。
赤い花びらがふわりと舞い上がる。
せっかくの大輪の薔薇が、もったいない……。
残念な気持ちで花束を見つめていると、黒っぽい何かが飛び出してきた。
「きゃっ! クモ……?」
飛び上がって後退りするわたしをチラリと見て、イシザキが唇を歪めて笑う。
「よく見ろ。クモより厄介な奴だ」
逃げようとするわたしの首根っこを掴み、前に押し出してきた。
立派な鋏に、反り返った尻尾。
あれは……サソリ!?
わたしは驚きと恐怖で身をすくませた。
カサカサと素早く床の上を移動するサソリ。
気持ち悪い……!
「薔薇にサソリか……。キザ野郎らしい挨拶だ」
イシザキは面白くなさそうに言うと、唇の端に煙草をくわえた。
今にもサソリが飛びかかってきそうで落ち着かない。
尻尾に毒を持っているから、刺されないようにしないと……。
「気に食わねぇ」
煙草をふかしていたイシザキがそう吐き捨て、首の骨を鳴らした。
一瞬、わたしに言ったのかと思ってギクリとしてしまう。