“奴ら”?


 “俺ら”の間違いないじゃないの。


 そう思ったが、もちろん言わなかった。


 もしかしてイシザキは、自分だけは別格だと思っているのだろうか。


 売買に関わっている時点で、同類に過ぎないのに……。


 イシザキがこっちを見ていた。


 思考を読まれたら大変なので、わたしは慌てて頭の中の邪念を打ち消した。



「──いよいよロミオの番だ」


 イシザキが薄笑いを浮かべながら、モニター画面を顎でしゃくる。


 舞台装置が動き出し、椅子に縛りつけられた裕太が姿を現した。


 ぐったりした様子で、顔を上げる体力もなさそうだった。


 怖い……!
 

 わたしはこれ以上ないと言うくらい、緊張と不安に襲われて大きく身震いした。


 今ここで、彼の運命が決まる──。


 一生の別れになってしまうかもしれないと思うと、じっとしていられなかった。



「お願い……。裕太を助けて下さい。お願いします……!」


 両手を合わせながら口の中で祈る。


 わたしを一瞥したイシザキが“やれやれ”と言うように首を振るが、何も言わなかった。



『さて、次は出品番号212番です。十六歳の健康的な少年です。……ちょっと、疲れてるようですがね』


 司会者の男が動かない裕太に近づき、その肩を二本の指で軽く突いた。


 観客席からため息が聞こえてくる。


 “何だ、男か……”

 
 そんな会場の薄い反応に、わたしは早くも暗雲が立ち込めるのを感じた。