男が置いて行った紙袋の中には、水と食糧が入っていた。


 クラッカーの大袋、食パン一斤、パック詰めのサラダ、チーズの塊、オレンジ、林檎……。


 今のわたしには全部ごちそうに思えて、嬉しさのあまり顔が綻ぶ。


 付属品のプラスチックのフォークでサラダを食べた。


 レタスときゅうりとプチトマトだけのシンプルなサラダが、こんなにも美味しく感じるなんて……。


 わたしは夢中で平らげると、今度は食パンをちぎって口いっぱいに頬張った。


 家では必ずトーストにしていたが、そのままでもほのかな甘味があることに気づいた。


 あまり好きではなかったチーズさえも、わたしを魅了する食べ物へと姿を変える。



 あぁ、なんて美味しいの……!



 空腹が満たされ、幸せな気持ちになった。


 水を飲んで一息ついた瞬間、苦しむ裕太の姿が脳裏に浮かんだ。


 わたしったら、自分のことばっかり……。


 罪悪感と自己嫌悪に襲われ、胃が重くなる。


 少しでも、彼に食べ物を分けてあげられたら
どんなに良かっただろう。


 そう思いながらも、わたしは残りの食糧で何日生き延びられるか計算していた。


 自分の中に隠されていた醜い本性を自覚させられ、しばらく落ち込んだ。


 
 ごめんね、裕太……。


 わたし、こんなに汚い女だったんだよ。


 本物のジュリエットにはなれないみたい。



 涙が込み上げてくるのを抑えきれず、両手で顔を覆った。


 ここに来てから、何度泣いただろう?


 強くならなきゃと自分を戒める一方で、先が見えない檻の生活でどう強くなればいいのか分かるはずもなかった。


 ふいに部屋の電気が消えた。


 真っ暗の中、自分の啜り泣く声だけが静かに響く。


 消灯時間と言うこと?


 ベッドどころか、布団さえないのに……。


 それでも、規則だとしたら寝なければならない。
 

 わたしはバスタオルを二枚敷いて、その上にのろのろと横たわった。