身をよじって抵抗すると、さらに強い力で押さえ込まれた。



「嫌っ……離して! 裕太ぁッ」


「萌! やめろ、彼女に乱暴するな」


 立ち上がろうとする裕太の背後に、新たな黒い人影が音もなく現れた。



「裕太、後ろ……!」


 わたしが口を開くのと同時に、人影が裕太の腹部を蹴り上げた。


 低い呻き声を上げて地面にうずくまる裕太。


 何で、こんな酷いことをするの?


 愛する彼氏の痛ましい姿に、わたしは声も出せないくらいショックを受けた。



「も、え……」


 裕太が脇腹を押さえながら、苦しそうな声でわたしの名前を呼んだ。


 こちらに向かって伸ばされた手が虚しく空を切る。



「裕太! 裕太ぁっ……」


 わたしは泣きそうになりながら、必死に彼の名前を呼び続けた。


 何者かがわたしたちを引き裂こうとしている。



 それだけはやめて……。


 死ぬときは一緒に死なせて。



 男の腕の中でもがきながら、わたしはそんなことを口走っていた。
 

 丸めた布で口と鼻を覆われた瞬間、強い刺激臭に脳が揺さぶられた。


 手足がピリピリ痺れ、全身の力が抜けていく。


 わたし、どうなっちゃうんだろう……。



「萌! しっかりするんだ」


 羽交い締めにされた裕太が叫んでいるけど、わたしの耳には何も届かなかった。


 眠いわけではないのに意識が朦朧としてくる。


 おやすみ……裕太。



「離せ……くそっ! 萌、しっかりしろ!」



 目が覚めたらまた会おうね。



「……萌ーッ!」



 わたしの意識はそこで途絶えた。