身体がグラリと揺れ、倒れそうになったところを裕太に抱き止められる。



「萌っ、大丈夫か!? しっかりしろ」


「……裕太。あれ? わ、わたし……生きてる?」


 自分の身体が何ともないことに気づき、わたしはポカンと口を開けた。



「ううっ、ぐぅ……!」


 その呻き声に顔を上げると、田中が脇腹を押さえてうずくまっていた。


 どういうこと……?


 撃たれたのはわたしではなく、田中だった。



「ぐっ……! き、さまぁ……イシザキィィ!!」


 田中の狂ったような雄叫びが響いた。


 イシザキ……?


 慌てて扉から顔を覗かせると、床に這いつくばりながら拳銃を構えたイシザキの姿が視界に飛び込んできた。


 血だらけになりながらも、目はしっかりと田中を見据え、今度こそ確実に仕留めようと狙いを定めている。


 投獄されていたんじゃ……?


 もしかして、わたしたちを助けるために自分の命を賭けてくれたのだろうか。


 そう思うと胸が熱くなり、衝動を止められなくなった。



「……イシザキさん!」


「あっ、萌!」


 裕太の制止を振り切って、イシザキの元へ駆け寄った。


 頭に巻いた包帯から血が流れている。


 監獄から逃げる時に痛手を負ったのだろう、見るからに痛々しい。



「来るな……。ハァ、どけ……ジュリエット」


 イシザキが田中を睨みつけたまま、わたしを拒絶する言葉を吐く。


 しかし今なら分かる。


 この人は、本当は優しい人なんだと……。



「イシザキ……貴様、やはり裏切り者だったか。じい様の睨んだ通りだ」


 田中の声に振り返ると、銃口がわたしに向けられていた。


 イシザキが舌打ちする。



「だから、来るなって言っただろう……!」


 不機嫌そうに吐き捨てるイシザキ。


 その刹那、銃声が轟いた。


 わたしは恐怖に固まり、足がすくんだ。



「ぐわぁッ!」


 田中が叫びを上げながら倒れる。


 その隙に裕太が拳銃を奪い、田中の頭に突きつけた。



「ハァ、ハァ……。俺を殺したからって、この地下世界はなくならない。残念だったな、イシザキ」


 血を流しながら突っ伏する田中が、イシザキを見つめながら言う。


 つまり、田中が死んだところで何も変わらないと。


 氷山の一角と言うことだろう。



「……うっ、ゴホッ!!」


 突然口から血を吐いて、田中は息絶えた。


 そして静寂が訪れた。