今までわたしに危害らしい危害を加えなかったのは、つまりこの体制に反旗を翻していたからなのだろう。


 七福神を憎んでいたイシザキは、ずっとそのときが来るのを待ち続けていた。


 疑われないように自身もオークションに参加し、莫大な金額をつぎ込んだ。


 いつまでも自分のように少女を虐待しないことに不信感を抱いた七福神はイシザキの裏切りに気づいたのだ。

 
 そして監禁し、拷問にかけた。


 ミスターBからわたしを奪還し、いずれは他の少女のように拷問の末に殺すつもりだったのだろう。


 何とも恐ろしい男だと思う。


 人の良さそうなお爺さんと見せかけて、冷血な殺人鬼だったのだから……。


 
「助けてくれますか?」


 わたしはイシザキが味方だと確信して、真顔
で訊いた。


 拳銃をくるくる回しながら溜め息をつき、イシザキは静かに口を開いた。



「ここにいても地獄、逃げるも地獄。だが、どうするかはお前たちの自由だ。出来るだけのことはやるが、いかんせんこの体たらくだからな……」


 やや自嘲気味に薄く笑いながら肩をすくめる。



「お前たちの命までは保証できない。もしかしたら、俺も含めて全員アウトの可能性もある」


 それでもいいか、とイシザキが念を押す。


 もちろん、そこまで甘えられないのは分かっている。


 裕太を見ると、彼も承知とばかりに無言で頷いた。



「……それでもいい。わたしたちには、イシザキさんが必要なんです」


 今では心底そう思っていた。


 イシザキが眉をわずかに動かし、わたしをじっと凝視する。


 でも、もう怖さは感じない。



「……よし。行くぞ」


 イシザキは背を向けると、ジャケットに拳銃を隠して部屋から出て行った。


 まるで、散歩にでも行くかのような気軽さで──。