日記帳を元の位置に戻し、引き出しを閉める。


 以前この部屋に閉じ込められていたであろう少女による、虐待や拷問を匂わせた日記……。


 七福神の目にも留まっているはずなのに、なぜそのままにしておいたのだろうか。


 何かしらの意図があるような気がして、わたしは落ち着かない気分になった。


 しかしやることもなく手持ち無沙汰になり、本棚から雑誌を引っ張り出して読むことにした。


 全部読み終わると、今度は小説に手を伸ばす。


 パラパラとページをめくっていると、ふと小さく折り畳んだ紙切れが挟まっていた。


 何気なく開いて見ると、そこには見覚えのある丸文字で『逃げて。殺される前に逃げて!』と書かれていた。


 日記の文字と同じ……あの、ジャスミンと言う少女だろう。


 逃げて──って、わたしに言ってるの?


 いや、少女は自分の後釜になる少女に向けて、警告のつもりでメモを書き残したのだろう。


 七福神の残忍さに気づき、身の危険を感じた彼女は逃げられたのか……。


 そんな奇跡など起こるはずもない。


 わたしは重いため息を漏らし、椅子から立ち上がった。


 バスルームのドアを開け、鏡を見つめる。


 思った以上に青ざめた自分と対面し、力が抜けそうになるのを感じた。


 あぁ、どうして……。


 涙で視界がぼやけていき、洗面台にしがみついた。


 ひとしきり声を押し殺して泣いた後、わたしは自分の身体が発する臭いに初めて気づいた。


 そうだ、最近シャワーも浴びてない……。


 バスローブを脱ぎ捨て、シャワーを浴びる。


 突然バスルームのドアが開き、七福神が顔を覗かせた。



「おっと、これは失礼! 姿が見えなかったもんで……」


 慌てて首を引っ込め、ドアを閉める。


 初対面ですでに裸体をさらしていたわたしにとって、その動揺ぶりは演技にしか思えなかった。