「アレックスは、あなたにちゃんと食事を与えていなかったのかな?」


 あっという間に空になった皿を見て、七福神が眉をひそめながら言う。


 哀れな子供を見るような目で。



「いえ、そんなことは。でも、最近はあんまり……」


「そうか。あれも人の子だからな。餓死させるような鬼畜な真似はしないだろう」


 なぜか安堵したような表情になる七福神に、わたしは少し違和感を抱いた。


 この人……自分のことを棚に上げて何を言ってるの?


 鬼畜な真似なら、あんたも負けていないだろうに。


 そこまで考えて、わたしは慌てて目を逸らした。


 七福神は、イシザキがわたしに拷問映像を見せたことを知らないのだ。


 そして、その映像の中に自分の鬼畜な行為がしっかり映っていることも……。


 もし、それに気づいたらわたしの身に危険が及ぶかもしれない。


 今はまだ好好爺を装っているが、本性を現す日はそう遠くないだろう。


 それまでに逃げなければ、わたしは殺される……。


 でも、どうやって?


 わたしは表情や態度に出さないように努めながら、あれこれ思案していた。



「……おっと。もうこんな時間か。ずっとここにいて可愛いお人形を眺めていたいが、私はこう見えて多忙の身でね」


 七福神はステッキで床を軽くついて、椅子から立ち上がった。


 お人形……やっぱり、そう言う扱いなんだ。


 自分の運命を示唆されたようで暗い気持ちになる。


 七福神を見送った後、部屋の中を物色した。


 案の定、扉は内側から開かないようになっている。


 トイレとバスタブが備わったバスルームは、イシザキのときにいた部屋のバスルームよりも広かった。


 ふと視線を移すと、机の引き出しから何かがはみ出していた。


 ……紙切れ?


 首をひねりながら引き出しを開けると、茶色い本が入っていた。


 日記帳だろうか。


 表紙に赤い染みのようなものが付着していて薄気味悪い。


 止めておいた方がいいと言う警告する自分と、好奇心を抑えきれない自分がせめぎ合う。



「……ちょっとだけなら、いいよね?」


 わたしは恐る恐るそれを手にして、ページをめくった。