カツ……カツ……カツ!


 目の前で靴音が止まったと同時に、わたしも反射的に息を止めた。


 そうすれば姿を消すことが出来るかのように。


 しかし容赦なく腕を掴まれ、物凄い力で引っ張り上げられた。


 わたしは抵抗しようとしたが、大柄な男に簡単に押さえ込まれてしまう。



「いやっ! 殺さないで……お願い」


 か細い悲鳴を上げて命乞いをする。


 プロレスラーのような男はそれを無視して、わたしの足首の鎖を小さな鍵で外した。


 赤い痕になっている部分が少し痛痒い。


 男はわたしをジロリと見ると、黒い頭巾を頭にすっぽり被せた。


 真っ暗で何も見えず、呼吸も苦しい。



「嫌っ! 何なの、これ……取ってよ!」


 わたしはパニックになり、男の腕の中でもがいた。


 ふわっと足が宙に浮いたかと思うと、身体を抱え上げられる。


 動くたび、男のゴツゴツした背中に頭がぶつかった。



「ねぇ、ちょっと! どこに行くの? 下ろして……嫌ぁっ!」


 手足をじたばたさせながら、わたしは無駄な抵抗を試みた。


 男がため息をつき、舌打ちをする。



「うるせぇ小娘だ……。いい加減黙らねぇと、鼻をへし折るぞ。俺の腹を蹴るのも止めろ」


 低い声で脅され、わたしは身の危険を感じて
暴れるのを止めた。
 

 何で黒い頭巾を被せられたんだろう?


 頭の中で“処刑”と言う二文字が浮かんだ。


 叫びたくなったけど、痛い目を見たくなくてぐっと歯を食いしばった。


 何をされるか分からない未知の恐怖がわたしに襲いかかる。



「頭巾を外せ、小娘」

 
 荒々しく地面に下ろされ、わたしはよろけながら視界を覆っている頭巾を外した。