本当にここから逃げることなんて出来るのだろうか。


 いくら、内情に詳しいヒカルがついていたとしても……。


 裕太も一緒に逃げるなんて、夢の話のような気がしてきた。


 無事に地上に戻れる可能性は考えてみなくても低い。


 やる前からこんなに弱腰では、いけないとは思うのだが……。


 イシザキに逃亡計画を知られたら、わたしは消されるだろう。


 幾つもの不安が胸に重くのしかかる。


 わたしはため息をついて、やっとの思いで部屋にたどり着いた。



 ……うわ、何でいるの!?



 イシザキがモニターの前の椅子にふん反り返って、わたしを待ち受けていた。


 よりによって、こんなときに……。


 首輪のGPS機能が地下道に長居していたことを示しているはずだ。



「ただいま……」


 わたしは内心ビクビクしながら、ぎこちなく会釈した。


 煙草を吸っていたイシザキは、無言で煙を吐き出した。


 ……この『間』がとてつもなく怖い。


 膝が震えそうになるのを力を入れて堪えた。



「貴様への土産だ」


 イシザキが不自然に膨らんだ紙袋を投げつけてきた。


 声音がいつも以上に低く、口調もぶっきらぼうだ。


 最近は“お前”呼ばわりだったのに、“貴様”に戻っているのも気にかかる。


 やはり、イシザキは見抜いているのだろうか……。



「開けないのか」


「わ、分かった。開けます!」


 イシザキの手に光るものが握られていることに気づき、わたしは慌てて紙袋を拾い上げた。


 かなり重い。


 一体何が入っているのか……。


 わたしは何の気なしに紙袋を開けた。


 中に入っていたのは、男の生首だった。


 薄いビニールのようなものにくるまれている。


 
「ひっ……いやぁあああっ!」


 わたしは悲鳴を上げながら、反射的に紙袋を放り投げた。


 生首がゴロンと転がり、イシザキの足元で止まった。



「な、何で……」


 青ざめるわたしを見て、イシザキが生首を手にニヤリとする。



「コイツの首を切断するのは骨が折れたぜ……。硬直した死体は、チェーンソーで解体する」


 淡々と説明しながら、くわえていた煙草を生首男の顔に押しつけた。


 ジュッと言う音ともにビニールを突き破り、男の口に煙草が捩じ込まれる。