「10分もしないうちに来れるって。
もう一人来るけど、大丈夫?」


駄目だといったら変わるのだろうか。
一瞬よくない考えが過るが、
くろの顔をみて思い直す。
(いや、変わらないだろうな....。)

私は大丈夫と答えておくことにした。

そうするとほっとしたような素振りを見せて、おずおずと私をリビングへ招いたのだった。


そう言えばここは玄関先だったのか、
声を掛けられて気づく。

ここがどこかも分からないほどに私は必死だったのかと思うと私もまだまだ若いなと自嘲気味に笑みが零れた。


するとくろが不思議そうな顔をして
こちらを向く。


「どしたの?緊張、してないの?」



緊張.....。


そんなのしているに決まってる。

大体くろに会うこと自体が緊張することなのだから。
それに加えて「お日様」が来るというのだから、しないはずはなかった。
正直緊張しすぎて実感がわかないというのも嘘ではなかったが。

でもそれをくろに言うのは憚られて、
私は曖昧に返事をした。

「よくわかんないけど、ココアのむ?」

飲むと答えるとくろはキッチンにはいっていきながら

まだおねーさんがくれたのあるんだー。

といつもの調子で話していた。


泣いているくろは美しいけれど、泣いていない方がずっと好きだ。

何故か浮き足だって見えるくろの背中をみてそう思う。

たった二週間も経ってない短い時間なのに。
それこそ彼と暮らしていて二週間会わないことすら日常茶飯事だった私が。
くろに会わなかっただけでこんなに
乱されて、
くろに会ったことで満たされている。



あぁ、やっぱり前に進むのには
本当はくろがいてほしい。


くろが、必要だ。



「お日様」が来る。
くろの大切なひとがくる。

あの可愛らしい子が、きっと
くろにとって必要な子だろう。



分かってる。
せっかく逃げていたことが今日、
曖昧な境界線を飛び越えてやって来てしまう。



覚悟しなければ。


私の未来にくろがいても良いのかと、
きちんと尋ねなければ。



「お日様」にとってくろは
何なのかをしっかり記憶しなけば。




私は前には進めないと、
分かってしまったのだから。


指輪をぎゅっと握りしめ決意を固める。


一人息巻く私にくろが
ココアを差し出しながら
首を傾げていたことを、
この時の私は知る由もないのだった。




そして、本当にくろが電話をかけてから10分後。



インターホンが部屋に鳴り響いた。