あれから一週間。
くろのアトリエに近づくことは一切無かった。
通勤時間も通勤ルートも変えた。
もう2度と、会う気がなかった。
会えるとも思えなかった。
私は気付いてしまっていた。
あんなに何度もアトリエに訪れていたくせに連絡先を交換していなかった。
私は心の奥で分かっていたけれど、
聞いて浅ましいと思われたくなかったのだ。
くろは気付いていただろうか。
それに私がアトリエに行くことが100%でくろは私の家を知らない。
彼の行動エリアも公園からアトリエという狭い範囲しか、わからない。
連絡をとるには、くろに会うには方法はただ1つ。
私がアトリエに行くことしか選択肢は無かった。
けれど私はアトリエに行くことが恐くなっていた。
また、お日様の子がインターホンに出たら?
上手く会話なんてやっぱり無理だ。
また、私は逃げ帰ってしまうだろう。
それだけならまだ良い。
くろが、「もう来ないで。」
そう私に宣言したら?
私は今度こそ色を失うだろう。
でも、くろを忘れることなんか、
できるはずもなくて。
くろがくれた指輪は職場にはつけていけるようなデザインではなかったから、
くろにも誰にも内緒でこっそりチェーンに繋いで首から毎日下げることにしていた習慣を続けている。
この指輪は正真正銘くろが「私」にくれた物だから。
辛くなったら服の上から指輪を握りしめる。
この指輪があればまた前を向ける。
そう言い聞かせてくろのいない生活に溶け込もうとしていた。
とはいっても家にまっすぐ帰るのは淋しくてコーヒーショップに立ち寄り並んでいると。
後ろから肩を叩かれた。
くろ?!
咄嗟に頭に思い浮かべてしまうくろの姿。
けれども違った。
くろではなかった。
「久しぶり。」
彼が、いた。