隣の部屋は何も無い。
本当に空っぽだ。
このままそっくり誰かに
貸し出せるくらいには綺麗だ。
ただし掃除機をかければ、の話だけど。
彼が出ていってから一度だけ中に入ったことがある。
その時私は初めて泣いた。
彼の好きな白いベットも
海外旅行中に買ったペイズリー柄の絨毯も、映画をみるための部屋には不釣り合いだった大きなテレビも。
タバコを吸うために設置していたベランダのスタンド型の灰皿も。
何も残っていなかった。
なにより愕然としたことは
私はこの事態を知らなかった。
いつなくなっていたのか、持っていったのか、こんなに空っぽになっていたのか。
まったく分からなかったのだ。
その事が何より苦しくて、
彼はもういない事実が、
ぺたりと座った
冷たいフローリングから伝わった。
嗚咽が口から漏れて、
涙が止めどなく流れて、
どこともなく視線をさ迷わせた。
私はどこで間違えたのだろうか。
確かに大事な存在だったのに。
確かに隣にいたのに。
当然の流れで結婚を視野にいれて暮らしていた。
だけど。
彼は、そうではなかった。
舞い上がっていたつもりも無い。
粗雑にしたつもりも、無い。
ただ、当たり前になってしまっていたのだ。
刺激も、ときめきも、些細なすれ違いも。
全てフラットにしていたのは、
お互い様だった。
その証拠に彼は別れ際、
私を責めたりしなかった。
ちょっと思い詰めたような
表情と裏腹に
「ごめんね、サヨナラ。」
それだけ言って去っていった。
この部屋をみて、責める内容すら
最近の私たちには無かったんだって
今更気付いて、惨めになった。
「本当に、どこで間違えちゃったんだろ。」
誰も居ないリビングでもう一度呟いた。


