private lover / another view

 要領を得ない話しの欠片を丁寧に拾い集めながら、

 新山の言葉を頭の中で整理する。

 彩並は特別扱いをしてくれたが、肝心なところで、

 そうしなかったということか?


 「寿クン無理してた……ウチのこと…………きっと
 そんなに、好きじゃナイ…………
 遠いの……すごい……遠いの………」


 ついに新山は顔を両手で覆い、嗚咽のみを部屋の中に響かせるようになる。

 水滴のついたタンブラーグラスから、つーっと雫が伝う。

 雫の細い道筋に、ハッキリとした焦げ茶色が、

 淡く氷の形を記すガラスの中の景色が見えた。



 今朝、岡崎美希は俺の腕を放した。

 あのときもう一度とめられていたら、

 俺は振り向いたかもしれない。

 きっと岡崎はそうするだろうと、俺は思っていた。

 だけど岡崎は俺の予想を裏切って、手を放した。



 見えていたはずのものが見えなくなって、

 見えなかったはずのものが、少し見えた。



 俺は自分が思っているよりバカだということが分かった。


 そして、傲慢だということも。



 ソファから立ち上がり、新山の隣りに行くと、

 そっと小さな背中に触れた。

 嗚咽に上下する新山が一瞬ビクッとなる。


 「岡崎とは別れたんだ」


 言うと、新山は俺の方に身体を傾けてきた。

 嗚咽の振動が腕を通して伝わってくる。



 いいよな、泣けるっていうのは…………



 新山の背に腕を回し、向こう側の腕まで手を伸ばして抱き寄せる。

 身体を支えてやろうと思ったのに、新山はすがりついてきた。

 悲しみが溶けた涙がYシャツにしみて、じっとり熱く感じる。

 どんなに濡れても体温がそれを乾かすが、

 悲しみの方はしっかりと俺の胸にまでしみてきた。




 いいよな、ちゃんと自分の欲求を表に出せるのは。




 新山はひとしきり泣くと、


 「ごめんね。ありがとう」


 と恥ずかしそうに言って、俺から離れた。