private lover / another view

 「お願い行かないで。話し聞いてよ」


 また俺は腕をつかまれた。

 強く、握りしめるように。

 気持ちはまだ完全に、俺の方に向いている。



 言うべきだな、俺は。

 岡崎美希の前で、卑怯な男のまま終わりたくはない。


 「俺な……けっこう前から岡崎のこと、好きだったよ」


 岡崎のことを守りたいと思ったときから、

 俺はそう思っていたのかもしれない。



 もっと早くに伝えるべきだった。


 「だから後悔だけはしたくない」


 この想いだけは綺麗なまま残したい。

 ガラスのように繊細無垢なせいで、

 心を見透かされてしまう頼りない少女。



 岡崎美希の、そのままを守りたかった。



 脆いガラスを壊すのが俺だったなんて思いたくない。



 だからもう―――――



 「言い訳はしないでくれ」


 それが、岡崎美希を守ろうとし続けた俺にできる、全てだった。

 岡崎は俺をまた、引き留めるのか?


 「ごめんね」


 腕から岡崎の感覚が消えた。

 少し、意外に思う。

 英雄にしては情けない終わりかただ。

 岡崎は多分泣くだろう。

 俺が消えてから、誰もいない教室で独り、静かに。