もしもその華奢な肩を抱くことが許される関係になったとき、

 岡崎が無理な微笑みを見たとしたら、

 その仮面を自分の胸の中で壊してやろうと思った。



 そのときが、今かよ―――――



 岡崎を見ていられない。

 床を睨み、俺はため息を吐いた。


 「彩並だろ」

 「違う!」


 せめて、偽らないで欲しかった。

 あんな姿で、あんな表情で。


 「土曜に新山と会って話した。彩並に、好きな女がいるから
 別れようって言われたって泣いてたぞ」

 「えぇっ!!」



 その驚きはウソがばれたせいか?

 それとも彩並が言った言葉のせいか?



 「相手はお前だろう?」

 「違うよ! 絶対違う。寿には唯夏さんていう
 小さい頃から好きだった人がいるの」

 「何で岡崎がそんなこと知ってるんだ?
 新山が知らないのに」

 「そっそれは……」


 もうやめろよ、岡崎。


 「唯夏なんていねぇ。数学の教科書もウソ。
 金曜、彩並に会ってたんだろ?」


 認めろ。


 「唯夏さんは実在し」

 「もういいからさ」


 笑いさえ漏れそうだった。


 「岡崎最低だよ? 友だちの彼氏盗るわ、
 二股かけるわ」

 「盗ってない! 私が好きなのは」


 その先は聞きたくない!!


 「ウソはもうウンザリだ。別れよう」

 「星哉! 待って星哉!!」


 後ろでにつかまれた腕を振り払う。



 やめてくれよ。

 もうたくさんだ。

 俺はもうこれ以上、岡崎が崩れる姿を見たくない。