胸に痛みがはしる。
目から熱いものが溢れ、こぼれ落ちた。

「フォルセスさん…」
「私は…っ!」
「無理に…話さなくても…」
私を気遣い、ジャックは言った。
だが、私は認めている。
私の罪を。
だから言葉を続けた。
「私は…悪魔だったんだ…」
「…」
「私は愛する夫も愛する息子もこの手で殺めた。…ただの殺人快楽者だったんだ…」

あの夜、妙に寝苦しかった。
耳障りな声が脳を刺激した。
次第に体が言うことをきかなくなり、私は、もう一人の私に身体を支配された。
そして、その街は滅んだ。

「私が…こ…この手で…みんな…みんな…みんなっ!」
震えが治まらない。
私は自らの腕で自らを抱いた。
ジャックがふと立ち上がり私の身体を抱き締めた。
身体から痛みが和らいだ気がした。
ジャック…!
私は彼の腕のなかで泣いた。

もう謝る事すら出来ない。
相手はみんな、私が殺してしまった。

そしてあの日以降、もう一人の私が出てくる事もなかった。
今思えば、ただ、私が殺人衝動にかられ、それを理解できない私が産み出した幻影…だったのかもしれない…。
身体が重い…
昨夜は一睡も出来なかった。
仕方がない。
否応なく押し寄せる恐怖はわたしを蝕む。
窓から光が射し、ジャックの寝顔を映す。
眠気が恐怖に勝るのを感じた。
そして同時に悟った。
私はジャックに安らぎを感じていると。
ジャックが目を覚ます頃、私は眠りについた。


嫌な気配があった…。
だから私は目を覚ました。
嫌な殺意が辺りを重くする。
私が命令する前に奴隷は馬を止めた。
私は立ち上がり、外にでた。
ジャックも何も言わず連れて外にでた。
見ると奴隷は何処かに消えていた。
だがどうでもいい。
私は再び使う時が来たのだと思った。
呪印が私の前に光る。
封印を解かれ、槍は笑った。
神槍グングニル。
それは私を悪魔にした唯一無二の私の槍。
手に取ると、ルーンが私を蝕むのを感じる。
分かっていた。
この槍はもう昔のように振るえない。
私は唯の人になったのだから…。
呪いが身体を蝕むのを感じた。