私はきっと幸せだったのだ…彼がいるだけで…他に何も…何もあらない…ただ…そこに…彼が存在するだけでいい…それだけのために…私は…全てを捨てた…復讐でさえも…

「フォルセ、何でそんなに強いんだ?」
ゼノは驚きを隠せないようだ。
街で絡んできた数人のごろつきを薙ぎ倒した私の姿が意外だったらしい。
だが、こんな輩など相手にもならない。
私はそんな環境で育った。
人々が恐れ近づかない山奥の森の中で。
そこには魔物と呼ばれるものが数多く存在し、私はそれらを素手で殺しては食事としていた。
だから、こんなただの人間など雑作もなく薙ぎ倒せる。
ゼノは頭をポリポリとかいた。
「下手したら俺より強いぞ…」
歯切れが悪い言葉。
きっと男としてのプライドが少なからず傷ついたのだろう。
私はしまったと思った。
ゼノの好みは可愛い子だったのか!?
と、嫌な汗をかいた。
だが、ゼノの様子からして引いてはいないようだ。
私は内心胸を撫で下ろした。
あの森でゼノに出会ってからこういう事が多い。
私は独りで暮らしていたため外界との接点がない。
昔、ママやパパが街の話をしてくれたのを多少覚えているかいないか程度で、両親とあの男を除いては、ゼノが初めて会う人間である。
だから、分からない事が山程ある。