「……さくらっ!!」


その時、それまで黙って話を聞いていた麻紀ちゃんが、いきなり立ち上がった。


「ど、ど、ど、どうしたん? 麻紀ちゃん……」


あたしは、びっくりして麻紀ちゃんを見上げた。

拳を握り締める麻紀ちゃんは、明らかに怒りの表情を浮かべている。


「もう我慢できない……行くよ、さくら!!」

「行くって……どこに?」


あたしは、恐る恐るたずねた。


「涼介のとこっ! アイツ……殴ってやらにゃあ、気が済まん!」


そう言って、麻紀ちゃんは左の手のひらを右拳で叩いた。

部屋中に『パーン!』と乾いた音が響き渡る。


「ちょ……ちょっと、やめてよ!」


あたしは、慌てて麻紀ちゃんの腕にしがみついた。


「何で止めるん!?」


麻紀ちゃんは、あたしに向き直る。


「さくらは、そんなことされて……そんなことまで言われて、悔しくないの!?」

「悔しいよ!!」


あたしは即答した。


「そんなの……悔しいに決まってるじゃん……」

「だったら……!」

「でもっ!」


うつむきながら、あたしは答える。


「……そんなことしても……ミジメになるだけじゃもん……」


つかんでいた麻紀ちゃんの腕を離し、あたしは力なく手を下ろした。


「さくら……」


麻紀ちゃんも拳を開き、ゆっくりと腕を下ろす。

部屋は、沈黙に包まれていった……