ピンポーン!


午前9時、綾瀬家のインターホンが響き渡る。


「はーい!」


軽やかな返事の後、ややあって玄関の扉が開かれ、40代前半の女性が中から姿を現した。


「あら……麻紀ちゃん」

「おはようございます、おばさま。お久しぶりです」


麻紀は笑顔を浮かべ、礼儀正しく挨拶をする。


「久しぶりね、麻紀ちゃん」


そう答えるのは、さくらの母、つばき。

ほがらかな春の日差しのような雰囲気をもつ女性だ。

この母親から、何故さくらみたいな慌ただしい子が生まれたのだろう……

と、麻紀はいつも疑問に思っていた。


「朝早くにすみません。……さくら、います?」


麻紀の言葉に、つばきは家の中を振り返った。


「さくらねぇ……」


麻紀も一緒に中をのぞき込む。


「……まだ、寝とるんかねぇ」

「そうですか……」


つばきの言葉に、麻紀は残念そうに肩を落とした。