「……いいの? 追いかけなくて」
さくらがいなくなり、2人だけとなった涼介の部屋。
その中で、橘恭子は涼介に問いかけた。
「いいんじゃ……」
涼介はつぶやくように答えると、床に転がっていたリンゴを拾い上げる。
「あいつを……本当に必要としてくれる人が、きっといるはず……」
リンゴを見つめながら涼介は言った。
「そして……俺は、その人じゃなかった……というだけの話じゃ……」
涼介は恭子に背を向けると、リンゴを一口かじった。
少し青いリンゴの、ほどよい甘みと酸味が口の中に広がっていく。
「涼介……」
「俺は……あいつの想いに……答えること……出来んけぇ……」
頬を伝う涙に、言葉が途切れ途切れになる。
「涼介……」
恭子は再び涼介の名を呼ぶと、ベッドから床に下り立った。
体を覆っていた毛布が、ハラリと床に落ちる。
そして恭子は、後ろから涼介をそっと抱きしめた。
涼介は、何も言わず、ただリンゴを食べ続けていた……


