君が為


それからしばらく経って、永倉さんと原田さんは、巡察があるから……と私の部屋を後にした。


残った藤堂さんは壁を背に、金平糖を一つ口に入れる。


私は二人の湯のみをお盆に載せると、そっと立ち上がった。


「私、これ片付けて来ますね。すぐに戻ってくるので……」


そう言って襖に手を掛ければ、


「待てよ」


と、背後から呼び止められた。


藤堂さんは目を伏したまま、手の中で金平糖を転がしている。
そして、ゆっくりとそれを握り締めると、私を真っ正面に見据えた。


「さっきの俺の言葉だけど……、悪かった」


「え……」


思わず聞き返す。
藤堂さんは意味もなく髪を掻き上げると、息を一つついた。


「悪かったって言ってんの。……人が素直に謝ってんだから、一々聞き返すなよな」


最後に小さく悪態をつく藤堂さん。
私は盆を持ったまま藤堂さんの隣に座る。


藤堂さんの言うさっきの言葉はおそらく、大阪の件で私に言ったあの言葉だろう。


あの言葉は確かに厳しいものだったけど、剣術の腕もなく、ましてやこの時代の事もろくに知らない私を嗜めるには最もな言葉だ。


芹沢さんに推薦されたんだ、と少し有頂天になっていたのかもしれない。


藤堂さんの言葉は、私を冷静にさせてくれた。
だから、謝るようなことじゃないんだ。