ひょんな事で幕末に流された私、夜神 詩弦は、壬生浪士組局長である芹沢さんに雇われて一週間、毎日が勉強だった。


火の起こし方や着物の着付け、釜戸の使い方、貨幣の価値……。
何もかもが平成と違うから、忘れないよう必死に頭のノートにメモする日々。


最初こそ皆に驚かれたものの、芹沢さんに認められたという事もあって、深く聞かれることはなかった。
それが、何よりも有難い。


まさか『未来から来ました』なんて言って信じてくれる人、そうはいないだろうから。


「おい、稽古の時間だっての。早くしろ」


「はいっ」


木刀を肩に乗せる藤堂さんに急かされて、私は胴着を掴む。


苛々した態度を隠そうともしない彼は、最年少の幹部隊士の藤堂 平助さん。
魁先生という異名を持っていて、剣の強さは折り紙付きだ。


芹沢さんに認められた後、改めて自己紹介をした私達。
あの時の重苦しかった空気は何処に行ったのか、みんな優しくて穏やかな顔をしてくれた。


「遅いんだよ、藤堂平助……俺に全員分の稽古を押し付ける気?冗談でしょ?」


壬生寺の境内には、十人ほどの隊士と、着物を派手に着崩した男の人が立っていた。


私達の到着の遅さに、ご立腹気味なのが、沖田 総司さん。
天然理心流の使い手で、この人も文句無しに強い。


「なぜ俺だけ睨む……というか、遅れたのは誰かさんを待ってからだし?」


「答えは聞いてない」


「聞けよ」


藤堂さんと沖田さんは歳が一つ違いという事もあってか、仲が良かった。