私にはもう選択肢はなかった。
この時代に身一つで放り出された今、頼れるのはこの人達だけなんだ。


もし、このまま無罪放免となって此処から釈放されたら、私はもう二度と太陽を拝むことが出来なくなるだろう。


治安が悪い京の都で、生きていく自信なんてこれっぽっちもないのだから。


此処に身を置く以上、毎日が生死の分岐点となり得る。
そして、直接ではないけれど、私は殺しに関わっていくんだ。


ーーそれでもいい。


「ーー此処で、働かせて下さい」


私は、芹沢さんの視線を弾き返すように、そう言った。


どのくらいの時間だったのか……。
数分、もしかしたら数秒だったかもしれない。


芹沢さんの引き締まった顔が、一瞬緩んだ。
それと同時に、手が離される。


締まっていた首元が一瞬にして解放され、酸素が一気に肺に入った。
軽く咳き込む。


手の甲で口を拭いながら、芹沢さんを見上げると、彼は優しく笑った。
本当に笑ったかどうかは分からないけど、私には笑ったように見えた。


「ーーこれを持ていろ、いずれ必要になるだろう」


芹沢さんは懐を探ると、短刀を私の前に投げ捨てた。
背筋が凍るような、そんな感覚が奔る。


私は短刀を手に取ると、その重さを確かめるように小さく揺らした。
ズシリとした短刀本来の重み……それに命の重みが掌から直に伝わってくる。


『いずれ必要になるだろう』


芹沢さんのあの言葉。
私が誰かを殺める時が来るということを言っているのか、それとも……。


「お前は今日から壬生浪士組の一員だ。我々の何恥じぬよう精進いたせ」


局長の顔でそう言うと、芹沢さんは腰を上げた。
私は短刀を握り締めて、部屋を出ていく彼の背中を見続けていた。