「ふーん、そうなんだ。
センパイ、振られちゃったんだ」
2年7か月の長い月日の終わりを伝えても、彼は同情の目を向ける事もなく、逆に口角が上がってる気がした
『…何、それ?
馬鹿にしてんの?』
キッと彼を睨んでも、彼は面白そうに笑うだけ、それがまた色っぽい
「馬鹿にしてんのかもね」
うんうん、なんて頷く彼にハァ、と大げさな溜息を吐いてホットココアを二杯用意して彼に差し出す
「きっと佐々木(ササキ)センパイは前から別れたいって思ってたんだろうね」
佐々木とは、啓祐の名字だ
『…は』
そんな事言わなくても、分かってるって
こやつはすぐ人の傷口をえぐる
『傍にいてくれると思ってたんだけどなあ…』
私はなんでこの人にベラベラと喋ってんだろう
「センパイ、泣きそう」
クスクス、楽しそうに笑う彼は私の目頭を優しく触る
『…からかってんの』
その手を振りほどき、雪に埋もれる校庭を眺めた
「あ、チャイム」
1時限目終了のチャイムが鳴る
『あー、戻りたくないよー、楠(クスノキ)くん』
吐いた息は、白い
「じゃあ、あと1時間いますか、センパイ」
優しく笑う楠くんにホッとしつつ、また席についた
私の目の前にいる彼は、楠 薫(カオル)
1年下のコウハイくん
出会いは半年前くらい
啓祐と喧嘩してこの使われてない校舎の家庭科室で泣いていた所に現れたのが、彼
この学校は部活がたくさんあるから文化部が部室として使っているものの、家庭科室は奥のほうにあるため生徒の姿は見たことがない
…むしろ、旧校舎は少し気味が悪いので部活の者以外ここには立ち入らない
お気に入りの場所だった、でも楠くんも昔からここで授業を抜け出してサボったりしていたらしい
楠くんは面白いし、優しい
そして何より、カッコイイのだ
でも私には啓祐もいたし、楠さんも"想いを寄せる人"がいるらしく、お互い恋愛感情はなく友達という感じだ
でも、仮にも異性だ
だから私達は、周りにこのことを話したことはない