新緑の癒し手


 妄想好きの乙女が書いた小説から飛び出した、完璧そのものの王子様。いや、逆に完璧すぎ欠点が見えない恐ろしい王子様というべきか。ダレスは以前からフィル王子をそのように思っているが、決して嫌味で言っているわけではなく、彼の気さくな言葉をダレスは知っている。

「それは面白い」

 というのが、フィル王子がダレスの生い立ちを知った時に発した言葉。その点に付いても自分自身も理解しているのだろう、ダレスの表現にフィル王子は爽やかな笑顔を作っていた。その笑顔に多くの女性が食い付き黄色い悲鳴を上げていたのは、今も思えば懐かしい。

「やあ」

 数少ない過去のいい思い出に浸っていると、セインがタイミング悪くやって来る。厄介な相手の登場にダレスは心の中で溜息を付くが、相手は名門一族出身の見習い神官。また見習いという立場であるが神官にはかわらないので、ダレスはセインに対し恭しい態度を取る。

「巫女様は?」

「今、支度中です」

「あっ、そう」

「で、何でしょうか」

「来てはいけないのか?」

「内容によります」

「うーん、そうか」

 ダレスの言葉を聞いていなかったのか、セインは堂々とフィーナの私室へ立ち入ろうとするが、寸前で制される。その素早い動きにセインは不満たっぷりの表情を作ると「冗談」と言葉を返すも、ダレスに行動を制されたのが気に入らなかったのか顔が微かに引き攣っていた。

 しかし、彼の行為は「冗談」という言葉で片付けられる問題ではなく、神官の立場にある人物が女性のそれも巫女の支度を覗き見しようとした。娼館の女主人サニアがセインの行動を知ったら「下品」と罵るだろう。それだけ神官として、有り得ない行動を彼は取った。

「じゃあ、いつ終わる?」

「それはわかりません」

「つまらん」

 生憎、ダレスは女性の支度等に詳しいわけではない。それに今回は一国の王子に謁見するのだから、支度に時間が掛かってしまうのは当たり前。最初「わからない」という答えを馬鹿にするはずだったが、正論を語られたことに逆にセインの方が無知と馬鹿にされてしまう。