新緑の癒し手


「俺は、外でお待ちしております。何かありましたら、侍女達に申し付けるといいでしょう」

「……有難う」

「いえ」

「行く時も一緒に……」

「勿論です」

 やはり最後の言葉は素っ気無いものであったが、ダレスが自分の心情を優先してくれたことが嬉しかった。しかししんみりと感情に浸っている時間は与えられず、ダレスは扉を開くと廊下で待機していた数人の侍女を部屋の中に招き入れ、巫女の支度を頼むと小声で囁く。

 それだけを侍女達に伝えると、自分は支度の邪魔になってしまうと足早に部屋から退出する。ダレスの姿が消え、扉が閉まる音が響く。それに合わせるかたちで待機していた侍女達は動き、フィーナの周囲を取り囲むようにして王子の前に出ても恥じない姿に変えていった。


◇◆◇◆◇◆


 ダレスは過去に数回、フィル王子と謁見している。王子の年齢は確か二十歳を過ぎており、人間の美的感覚で言えば容姿端麗といっていい。また勉学を熱心にされているので博識で、それに人望も兼ね備えているというのだからまさに物語の中に登場する王子そのもの。

 常識を逸脱した見習い神官に王子の優秀な一部分を分け与えたいと思う人物も多いというが、人生は思ったように上手くいかないもの。もし一部分を兼ね備えていたとしたら、セインは娼婦相手に宜しくやってはいない。また、品行方正の見本として生き立派な人物となっている。

 フィル王子は、どちらかといえばフィーナに近い考えの持ち主といっていい。彼はダレスの生い立ちを知っているが、それでも普通に接してくれる珍しい王子。といって、例の件は知らない。

 王家と女神イリージアを祀る神殿は昔から繋がりがあるので、フィル王子が新しい巫女として誕生したフィーナに会いに来るのは至極普通。それなら堂々と何人もの護衛を引き連れ訪ねればいいのだが「お忍び」という形で神殿にやって来るのは彼らしいといえば彼らしい。

 フィル王子は堅苦しさを嫌いどちらかといえば庶民的な感覚を持っているので、国民からの人気は高い。また、お忍びといっては民の暮らしの見学等を行ない、父親に意見している。結果的に現国王より人気があるのだが、性格と立ち振る舞いと言動を総合すれば強ち間違いではない。