ダレスの説明にフィーナは、言葉を失う。自分が暮している国は王様が統治し、その王様には一人の王子がいるというのは両親か聞かされ知っていたが、一度も顔を拝見したことはない。
王家の人間は自分達庶民とは別次元で暮らしており、外見は同じ人間の姿をしているが何処か違うとフィーナは認識していた。そのような人物が、何用で神殿を訪れたというのか――突然の王家の人間の登場に自分が何か失態を仕出かしたのかと、理由(わけ)をダレスに尋ねる。
「フィーナ様に、お会いに」
「私に?」
「はい。ですので、御支度を――」
「着替えるの?」
「今回は、一国の王子との対面です。流石に、今の服装では……ただ、ご安心下さい。外に侍女を待たせてあるので、彼女達が相応しい服装に仕上げてくれますので、どうぞお早めに」
「会わないと、駄目?」
「相手は、一国の王子です。ですので、ご病気等の理由がない限りは……ただ、どうしてもと申すのでしたら」
そのようにダレスは言うが、相手が相手だけに自分勝手の我儘を言っていいものではない。だからといって王子に会うのが怖いという感情がないわけでもなく、なかなか返答ができない。
不安感に心が支配されてしまったのかフィーナは何処か落ち着きがなく、オドオドしている。そんな彼女の姿にダレスは「相手も感情を持つ普通の人間なので安心していい」と優しい言葉を賭け、彼女の不安感を拭うようにフィル王子は神官とは違うことを説明していく。
ダレスの優しい心遣いに気付いたフィーナは纏う服の裾を強く握り締めると、巫女という立場を弁えず我儘を言ってしまったことを詫び、フィルという名前の王子に会うことを約束する。ただこれにはひとつ条件があり、王子に会う時にダレスが側にいて欲しいと頼んだ。
彼女の願いに対しダレスは頭を垂れ、快く引き受けることにする。これくらいの我儘を受け入れられないほど器が小さいわけではなく、これさえも拒絶してしまえばフィーナは全ての支えを失う。またフィル王子も器の大きさをダレスは知っているので、この点は心配ない。
互いに孤独の中で生きている者同士、繋がりを求めてしまう。この行為を「馴れ合い」と失笑する者もいるだろうが、多くの賛同者に囲まれ不自由ない生活を送っている者にこの者達の気持ちはわからない。また、わかるという人物は信用できないことをダレスは知っている。


