新緑の癒し手


 そして魔法の特に破壊面だけに視点を置けば、人間を取り巻く状況を考えれば危険な力といっていい。これは物語なので作者の匙加減ひとつで好きに展開を変更できるが、現実社会では自由に変更は不可能であり、使用する者の心ひとつでどのようにでもなってしまう。

 暴力を生業としている者が〈魔法〉を覚え悪い出来事や内容に使用し続けたら、平穏が失われ、波乱と暴力が支配する世界になってしまう。だから〈魔法〉は、現実に存在してはいけない。幸い〈魔法〉は物語の中だけに登場する想像の産物なので、現実に影響は与えない。

(私の血も魔法?)

 巫女の血の癒しの力に呪文は存在していないが、多くの人間を癒し傷や病を癒していること自体〈魔法〉そのものといってもいい。そして巫女の血で一部の者が得をしているのもまた現実であり、結果的に人間が持つ欲望を増大させていることにフィーナは気付いていない。

 借りた本を読み現実逃避を行いたかったフィーナだが〈魔法〉の存在を考えた結果、現実を直視してしまう。これ以上は考えたくないとフィーナは本を閉じると、テーブルの上に置き自身は椅子から腰を上げ窓の側に歩み寄り、何気なく外の光景を瞳に映し出していた。

(何かしら)

 ふと、慌しく神殿内を駆け回る神官の姿に気付く。普段は静寂に覆われている神殿内を歩く神官は皆落ち着いた素振りを見せ、決してこのように慌しく駆け回ったりはしていない。

 事件や火事などという何か重大な出来事が神殿内で発生したのかと考えたフィーナは、神官達に真相を聞き出そうと慌てて私室から飛び出そうとする。しかしその前に、神官が慌てている理由を話す者――ダレスが彼女の前に姿を現し、互いにぶつかりそうになってしまう。

「大丈夫ですか?」

「え、ええ。それと、ダレス。貴方は休まなくていいの? 疲れていたと言っていたけど……」

「そのことですが、フィーナ様にお話が――」

「話? 何かしら。それよりも、皆が……神官達が、慌しく駆け回っているけど……神殿内で、事件や事故が発生したの? そのようなことがあったら、多くの血を使わないと……」

「そのようなことはありませんので、ご安心下さい。神殿内で事件や事故は、発生しておりません。慌しい理由は、この国の王子であらせられるフィル・アイオーン殿下がお忍びで起こしになられたのです。突然のことでしたので、神官達もさぞかし驚かれたのでしょう」