それでも元凶が人間にあったとしたら、各種族は己が持つ力を最大限に発揮し全力で人間を潰しに掛かる可能性が高い。そうなれば豊かな大地は滅び、何者も住めない世界になってしまう。
やはり――
ダレスは母親の願いを思い出す。
ルキアは争いの基となっている「癒しの巫女の血」の消滅を願っていた。これ自体が消滅すれば、人間の特に一部の者達が行っている馬鹿げた権力争いや醜いプライドが無くなると考えた。
しかし現実は非情そのもので、女神イリージアはフィーナという少女の血に癒しの力を与えてしまう。その結果、ルキアの願いは適うことなく権力者は血の魔力に溺れ人間以外の種族をいまだに蔑む。それが、自分達が置かれている立場を危うくしていることも知らず。
「ダレス?」
「はい!?」
「どうしたの?」
「いえ……」
「変よ」
物思いに耽っていた影響で、フィーナが何度もダレスの名前を呼んでいることに気付かなかった。そして名前を呼ばれたのは何度目か、意識を現実に戻したダレスはフィーナの顔に視線を合わせると、一言「何でもない」ということを告げると、母親の思いを心の中に封じる。
「疲れているの?」
「いえ、そのような……」
「でも……」
「本当に平気です」
言葉で否定していても顔色は正直であり、フィーナに無駄な心配をさせてしまう。幸い彼女は心の中まで読む能力を持っていないので何を考えていたのか理解されないで済んだが、逆に疲労が蓄積しているのなら今日の講義を終了して早く休んだ方がいいと言われてしまう。
それに対し一瞬否定しようとしたダレスだが、珍しく肯定の言葉を口にしていた。疲労感があるわけではないが、雰囲気的に彼女の言葉を否定してはいけないと直感が囁いたのだ。
案の定、彼の言葉を聞いたフィーナは安堵に近い表情を作り「早く休んで」と、言葉を返す。いつも気丈に振舞っているダレスがやっと弱音を吐いてくれたということが嬉しいのか、フィーナは借りた本を両手で胸の前に抱えると「ちゃんと休んで」と言葉を残し、退室する。


