しかし、この世界で暮しているのは人間だけではない。確かに人口の比率でいえば人間が一番繁栄しているが、だからといって彼等の基準で物事を決めていいわけでもなく権利さえもない。
人間が癒しの血の力を女神から授かったのも偶然の産物かもしれないが、彼等の言葉を借りると「授かったのは必然であり、神は人間のみに愛情を示している」からだという。だからこそ他の生き物は異常な姿をしていると言い、人間以外の種族の神経を逆撫でしていく。
「族長は?」
「馬鹿馬鹿しいと言って、相手にしていない。寧ろ、人間は相手にするだけの価値がないと」
ヘルバの言葉に、ダレスは静かに頷き返していた。有翼人の族長の反応と態度は物事の道理を弁えている人物に値するのだが、いかんせん人間側の特に権力を持つ者が子供そのもの。
相手が何も言ってこないことをいいことに、好き勝手に言い独自の理論を言い続ける。そのひとつが「不浄」という言葉で、完全に自分達が有利な立場にいると勘違いをしていた。
だが、それが自分達を危うくしていることに全くといっていいほど気付いていない。周囲は今、人間が「愚かな生き物」と哀れみを持って見守っているが、その者達が本気で武力を用いたら人間の勝ち目はない。特にダレスの父親の種族が動き出したら、世界の大半が壊れてしまう。
「施しの精神もないのか」
「あったら、母はあのような形で死ななかった」
「……そうだな」
「ああ、暗い話になってしまった。お前が来た時くらいは、普通の明るい話をしたいんだが……」
「悪かった」
「様子を見に来たと言っていたが、それって父さんの差し金? 帰って来いと言われ続けているから」
「なら、すぐに帰ればいい。お前だったら、実家がある村へすぐに行くことができるだろう」
「彼女が心配だ」
現在、フィーナが置かれている状況と神官達の動向を見ていると、「父親に呼ばれているから」という理由で実家がある村に戻るわけにもいかない。もしダレスが戻っている間に何かがあった場合、責任が取れない。特にナーバルの息子セインの動きに最新の注意を払わないといけず、彼の人間を超越したといっていいほどの欲望で彼女が狙われたら堪らない。


