「で、何?」
「お前の様子を見に来た」
「相変わらずだよ」
今、ダレスと言葉を交わしている二十代前半の若者で、名前はヘルバ。背中に両翼を持つ〈有翼人〉と呼ばれている種族の一人。そして彼はダレスの親友で、時折様子を見に来ては他愛ない会話を繰り返す。今日もその「他愛ない」会話を交わす予定であったが、友人の顔の傷に顔を顰めた。
「そのようだ。また、あいつ等に暴力を振るわれたのか? いい加減、反撃くらいしたらどうだ」
「止めておく」
「まあ、気持ちはわからなくもないが……」
「だからだ」
「あいつ等もそれがわかっているから、一方的に手を出すのだろう。本当に、人間って奴は……」
何もしてこない相手に好き勝手に振舞える神経が理解できないヘルバは、風に靡く茶色の髪を掻き揚げつつ人間の悪い点を述べていく。それは全て正論で反論の余地はなく、それどころかよく観察していると褒め称えていいものであったが、それが全てではないとダレスが言葉を遮る。
「巫女か?」
「……ああ」
「お前の母親が死んで、二度と巫女が誕生しないと思っていたが、また巫女が誕生するとは……女神は非情だね。再び採血の痛みに耐えないといけない女の子を生み出したのだから」
ヘルバは両翼のはためきを止めると地面に降り、壁に身を預ける形でダレスとの会話を続けた。ヘルバの種族〈有翼人〉の間でも、癒しの巫女の血は有名であったが誰一人としてその血に頼ろうとはしない。
必要以上に人間と関わりを持たないというのが彼等の考え方であり、また自然の摂理に反した行動を取りたくないという。我が身に訪れた死を有りのままに受け入れ、静かに死を迎える。それが〈有翼人〉の生き方であり、癒しの巫女の血で生き永らえるやり方は好まない。
「そもそも何故、人間だけに――」
「不浄のものではないからと、神官が言っていた」
ダレスの発言に嫌悪感を抱いたのか、ヘルバは舌打ちをして見せた。そもそも、何をもって「不浄」というのか。確かに〈有翼人〉は背中に翼を持ち、人間とかけ離れた存在である。また彼等の翼は物語の中に登場する純白の天使の翼と違い、それは猛禽類の翼そのもので決して美しくはない。


