阿呆が。
囁く本音は、誰の耳にも届いていない。
そもそも、息子を神官として成長させる自体間違っていたのか。そう、ナーバルは自問自答を繰り返す。彼の一族は代々神官を輩出する家系だが、どちらかといえばセインは異端児。性格の面を考えると、神官としてイリージアに仕える資格がそもそも持ち合わせていない。
しかし「代々神官を輩出」という部分に固執してしまった結果、息子の素行の悪さが目立つ。だからといって、今更引き下がるわけにもいかない。この計画は、何が何でも遂行しないといけないのだから。
◇◆◇◆◇◆
神官達から一方的な暴力を受けたダレスは今、自室で怪我の手当てを行っていた。幸い怪我はそれほど酷いものではなく、怪我した箇所に薬を塗っておけば数日で完治する程度のもの。
彼が現在使用している薬の中には、巫女の血は含まれてはいない。以前フィーナに話した通りダレスの身体には巫女の血の癒しの力は作用しないので本来持つ治癒力で回復しないといけないのだが、血が持つ癒しの力にダレスは昔から頼っていないので特に何とも思わない。
それどころか、彼等の怒りの矛先が全て自分に向けられたことを幸いとする。これでフィーナの立場を守ることができ、今以上の束縛が加えられないで済む。また、ある程度なら自由に神殿内を行き来できる。
全ては、母親との約束。
神官達によって軟禁状態に置かれているフィーナに多少の自由が与えられるようにと、ダレスは彼女に尽くし最善の方法を模索する。それが、彼女の精神面の安定に繋がるからだ。
尽くす。
ふと「尽くす」という表現に、違和感を覚える。当初の目的は「母親との約束」を守る為に行動していたが、フィーナと交流を深めていくうちに「尽くす」という意味合いに変化が生じる。だが、その意味合いの変化に何が関係しているかというのは、今のダレスにはわからなかった。
その時、何かが羽ばたく音がダレスの耳に届く。鳥が力強く羽ばたく音にダレスは治療の手を止めると窓を開き音が響く方向に視線を向け、音の発生源を確かめる。案の定、羽ばたきを奏でている主に見覚えがあった。その者は予想外の人物というべきか、それとも神出鬼没というべきか――ダレスは空中で両翼をはためかしている人物に、珍しく毒を吐いていた。


