「品行方正と言っただろう」
「ですが、限度というものがあります」
最初は父親の提案を呑み意気揚々としていたが、欲望中心で物事を考えているセインが品行方正の生活を長く送れるわけがない。結果、予想以上に早く根を上げ父親に娼婦を求めた。
堂々と「娼婦」という単語を口にする息子に、ナーバルは頭痛を覚える。また、周囲にいた神官達は次々と溜息を漏らし、セインの常識を逸脱する能力に驚くと同時に呆れていた。
「まったくお前は……下半身にしか血液がいかないのか。たまには血液を頭に回せ。この馬鹿者!」
「回していますよ。回しているからこそ、父上の提案を呑んだのです。ですが、やはり……」
再び息子が「娼婦」と言いそうになったのをナーバルが寸前で制する。ナーバルにしてもれば、これ以上不快な単語を聞いていたくないということなのだろう、彼の機嫌が悪くなっていく。
しかしセインは、健康体の男子。異性を求め異性を抱き気分を発散させるのは、至って正常なこと。それについては自他ともに認められている見習い神官なので、品行方正の名の下の禁欲生活は苦痛そのもの。また、セイン曰く「自分でも結構頑張っている」と自己評価を下す。
「そのようなものはいらん」
「父上」
「泣き言など聞きたくない」
容赦なく息子を切り捨てるが、内心では複雑な心情を抱えていた。どこをどのように間違えて、このように成長してしまったのか。幼い頃は普通の男の子であったが、何かを境にして今のような性格に変貌してしまった。ナーバルはいまだにその原因が掴めず、頭痛の種と化す。
一方、父親の気持ちを全く理解していないセインは、禁欲生活を解除してくれない父親に苛立ちを覚える。いかんせん彼が優先したがっているのは人間が持つ欲求のひとつであり、ましてや修行も中途半端なセインが精神力で抑え込めるものではなく、結果悶々として日々が続く。
「しかし……」
「解除ですか!?」
含みがある言い方をする父親の言葉に、反射的にセインが飛び付く。だが、ナーバルが言いたいのはそのようなことではなく、そもそも禁欲生活の解除をするわけがない。ナーバルにしてみれば、何が何でも息子に品行方正の日々を送らせフィーナと結婚して欲しいのだ。


