聖職者という名前は偽りで、彼等は普通の人間より負の一面が強い。その人物達が何を仕出かすかは予想が付き、ましてやダレスを毛嫌いしているので酷い仕打ちをフィーナは恐れた。
それでもダレスは「大丈夫」と、繰り返す。そして自分が勝手に連れ出したと彼等に言って欲しいと頼み、フィーナを急がした。優しい――いや、優し過ぎるダレスの心遣いに後ろ髪を引かれる思いがあったが、いつまでも我儘を押し通せる状況ではない。フィーナは立ち去る瞬間ダレスを一瞥すると、迷いを振り切るかのように駆け足で神官達のもとへ急ぐ。
「そう、それで……」
鬱蒼と茂る木々の間にフィーナの姿が消えるのを確認した後、ダレスはそっと呟いていた。自分が全てを背負うということに関しては、後悔などしていない。それどころか、フィーナという名前の巫女が今以上の苦痛を味わうことを避けたかった。だから、あのように選択する。
「母さん、貴女のようには……」
過去の出来事を思い出せば、神官達のルキアに対しての所業が浮き彫りになる。精神的に追い詰め衰弱死したルキアの遺体は、巫女ということで丁重に葬られるものと当時のダレスは考えていた。
しかし彼等が行ったのは、死者の冒涜。また、巫女としての役割を担ってきた者への侮辱。彼等は永遠の眠りに付くルキアの身体に剣を幾重にも突き立て、最後の一滴まで血を抜き取った。そして血を抜き取られた遺体は神殿の片隅へ追い遣り、歴史から完全に抹殺した。
悪魔。
当時、ダレスはそう罵った。
彼等は、人間の皮を被った悪魔。本当に人間の心を体内に有しているのなら死者の身体から血を抜き取りはしないが、彼等はそれを行なってしまった。それが人の道に外れようとも。
癒しの血は多くの者を助けると同時に、人間の欲望を掻き立てるモノへと変わってしまった。その善と負の部分を併せ持っている癒しの血の存在自体が危ういと、母親の件でダレスは学習する。だからダレスはフィーナに言った、癒しの血など無くなってしまえばいいと――
「体内に流れる血から、癒しの力を奪い取ることができればどんなにいいか。そうすれば、彼女も……」
癒しの力を失えば、フィーナは普通の女の子に戻ることできる。普通に生活を送り普通に恋をし、愛する者と永遠の誓いをする。そして子を育み温かい家庭を築いていただろうが、巫女としての力を得た今、その普通を体験することはできず神殿の中に軟禁されている。


