「何か、言われるかもしれません」
「別の場所へ行ったから」
「はい」
「どうしよう」
「ご安心下さい。フィーナ様は全て、俺の責任にすればいいです。彼等の態度と言葉は、慣れていますので」
「駄目!」
最善の方法を模索した場合、ダレスの意見が一番適切であるが、フィーナは誰かを犠牲にして自分だけ助かるということはできなかった。ましてやダレスは日頃から世話になっている人物なので、その想いは尚更。しかしダレスは、自分が連れて来たのがそもそもの原因と引き下がらない。
「違う。私が……」
「いえ、俺が連れて来たのです。そう、彼等に仰って下さい。その方が、事は簡単に済みます」
「……どうして」
「フィーナ様?」
「私、信用ないのかしら」
「そういう意味ではありません。今回ご自身の意思で向かわれたと知ったら、彼等は今以上に監視の目をきつくします。そのようになってしまえば、神殿内とて自由に行き来できません」
その言葉によって、フィーナは本当の意味でダレスの考えを理解する。彼は自分が犠牲になることによって、彼女の束縛を緩めようとしていた。確かにダレスが言うように自分の意思が今回働いていると彼等が知ったら、軟禁どころか監禁に近い状況に置かれてしまう。
全ては平穏の為に――
だから、ダレスは自身の犠牲を選んだ。
「……御免なさい」
「謝る必要はありません」
「でも、ダレスが何かされてしまう」
「それは大丈夫でしょう。彼等とて、女神に仕えている身です。俺の命を奪うことなどしません」
そのように言われても、フィーナは安心できなかった。長い年月――とまではいかないが、彼女は神官達の行動を間近で見ているので、彼等の裏の顔を知っている。表の顔は女神に仕えている清廉潔白の聖職者だが、裏の顔は人間の欲望を前面に曝け出している。特に採血時は容赦なく、彼等は倒れるギリギリの位置を見計らって採血しているのもわかっていた。


