新緑の癒し手


 理路整然と物事を語るのが特徴のダレスにしてみれば、今の態度は違和感しかない。余程「人間」という単語の意味を聞かれたくないのか、逸らした話も何処か違和感が生じてしまう。

 そしてこれ以上何かを語ったら必ず襤褸(ぼろ)が出てしまうと考えたのか、フィーナにこの場から離れると言葉を掛けた。当初「頭を冷やす」という意味でこの場所を訪れたのだが、今は完全に頭は冷えている。それにこの場所に長くいれば、彼女にいらぬことを言ってしまう。

「ダレスは、大丈夫なの?」

「フィーナ様こそ」

「私は大丈夫」

「俺も、同じです」

「その……戻る前に、お墓にお祈りをしてもいいかしら。同じ巫女同士、この状況は悲しく……」

「……どうぞ」

 無碍に扱われ、死後人目に付かない神殿の片隅に追い遣られてしまった巫女がいたということをダレスから聞かされなければ、彼女は何も知らないままで過ごしていた。その何も知らない無知の自分に恥じているのか、祈りを捧げるフィーナの表情は真剣そのものだった。

「俺からこの話を聞いたということは、誰にも話さないで下さい。この件に関しては、触れられたくないものとなっています。謂わば、禁句のようなものです。それもそうでしょう、巫女がこの場所に眠っているとは……それに母は、死んでやっと平穏を手に入れました」

 巫女は、平穏と無縁の生活を送らないといけない。だからこそ死こそが唯一の解放で、静寂を手に入れられる手段。確かに愛する者と結ばれ平和な時間を過ごしたが、それはほんの一時的なもの。結局は波乱に満ちた人生を送り、最後の最後まで神官達にいいように利用された。

 だからダレスは、母親の眠りを妨げるようなことをしたくなかった。そしてフィーナがついてくるのを拒んだのもそれらの理由が関係し、好き勝手にこの場所を訪れて欲しくないと付け加えた。

 彼の願いにフィーナは無言で頷き、彼の言葉を受け入れる。彼女自身、嫌がっている彼の心情を無視してまで訪れようとは思わない。それに同じ巫女として生きている身分として、人事とは思えなかった。

 彼女の優しい心遣いに感謝するかのように、ダレスは軽く頭を垂らす。ふと、頭を垂れている体勢でダレスの動きが止まった。そして、彼は神殿内を慌しく駆け回る複数の気配を感じ取ると、一言「神官達が捜しています」と言葉を発し、フィーナに急いで神殿に戻るように促した。