新緑の癒し手


 しかし、それならどうして憎しみの対象であるダレスを神殿に置いているのか。巫女の血を引いていながら巫女になれない男児など外の世界へ追い出すのが普通の考えだが、彼等はダレスを神殿に置きそれなりの仕事を与えている。だが、それは短絡的な理由が存在していた。

 神官達にとってダレスは異端そのもので、本来産まれてきてはいけない人物。しかし簡単に命を奪ってはいけないという建前上の理由と御情けで、神殿に住まわしているというが、彼等にとってダレスは都合のいい道具と同じだった。仕事を与えているといっても大半が面倒な内容で、そのひとつがナーバルがダレスに命じた息子を呼びに娼館に向かわせた件である。

 また、ダレスは他の神官達以上に高い知識を有し頭の回転も速いので、その点も利用されている。彼が神殿の外へ出て別の職業に就いた場合、それ相応の地位が望めるだろうが、いかんせんダレスの体内に流れる血がそれを阻む。それに母親との約束があるので、結局神殿の外へは行けなかった。

「ダレスは一人?」

「いえ、この場所に母が眠っています」

 そう言った後、ダレスは母親の名前が刻まれている墓石の前で片膝を付くと、永遠の眠りに付く母親に祈った。それは死者に対しての鎮魂の言葉。そして、来世への旅立ちを願う言葉。

 生まれ変わる時は、巫女ではなく普通の女性として産まれて欲しい。二度とあの辛い日々を送って欲しくない。だからダレスは願い、祈りを言葉に表す。平穏な日々が訪れることを――

「フィーナ様、お話が――」

 ふと、立ち上がると同時にダレスが言葉を発する。その彼の言葉にフィーナは首を傾げると、ダレスの言葉を待つ。先程の言葉に続けるように発した言葉の内容とは、巫女の結婚に付いて。

「多分……神官達は、フィーナ様の相手を用意しているでしょう。俺の母の時と同じように……」

「い、嫌っ!」

「それが、普通の反応でしょう。何処の誰ともわからない人物と結婚するなど、苦痛でしかありません。他に誰か好きな方が……ああ、それでは母の二の舞になってしまいます。ですが、人間なら……」

「人間?」

 ダレスが囁くような声音で発した「人間」という単語をフィーナが聞き漏らすことはなかった。反射的にその意味を尋ねるが、彼が何故「人間」と言ったのか話してはくれず、それどころか何か不都合な理由でもあるのか一方的に話を中断してしまい、無理矢理話を逸らす。