新緑の癒し手


 神官達が選んだ相手ではなく、何処の馬の骨とも判らない人物との結婚を望んだことにより、誰からも祝福を受けなかった。そして周囲の反応は冷ややかなものであったが、それでも本当の意味で心の底から愛し合ったもの同士、幸せは確かに両者の間に存在していた。

 ルキアが妊娠し、巫女になれないダレスが誕生するまでは――その結果、彼女の運命は一変する。小さな幸福は崩れ去り、役割を果せなかったルキアに批判の矛先が向かう。そして、彼等は口々に言う「我々が選んでいた相手と結婚していれば、このようにならなかった」と。

「何故、俺が産まれたのかはわかりません。これに関しては、記録が残っておりませんので。ですが、父と母は確かに愛し合っていました。それは紛れもない事実で、偽りはありません」

 本当に神官達が言っていたように、彼等が選んだ相手とルキアが結婚しなかったから異性であるダレスが産まれたのだろうか。それが事実であったら、イリージアはまことに非情な女神と語る。

 巫女が生涯のうちに産める子供は一人と決まっているので、女児ではなく男児のダレスが誕生したことに何か意味があるのではないかと考えるのが妥当だが、情報が少ない中で好き勝手に妄想を膨らませるのは危険が大きい。それに今は結論を出せば、必ず私情が混じってしまう。

 過去ダレスの父親は、これに関して触れて欲しくないと言っていた。過ぎ去った過去の出来事――そのように捉え心に深く負った傷を癒しているのだろう、愛した者が精神的に追い詰められ死亡したなど普通の感覚の持ち主であったら受け入れることはできない。それでも懸命に受け入れようとしているのは、争いに発展させない為と父親の心情を知っている。

「……御免なさい」

「どうして、謝るのですか?」

「ダレスのご両親のことや、ダレスの過去のことを何も知らなくて……それに、無理について来て……」

「いえ、構いません。それに、いずれはわかってしまうことですから。また、多くの者は知っています。母のことは有名ですし、それに俺は昔から神殿に暮らしていましたので……」

「だから――」

「はい」

 彼の話を聞き、神官達がどうしてダレスに冷たく当たるのか理由を知った。本来、巫女と呼ばれその血で多くの人間を癒さないといけないというのに、巫女になれない男が誕生してしまった。それも自分達の意思を無視した挙句なのだから、彼等の憎しみは相当のものである。